境界付近の相隣関係とは?
自己の所有する物(土地や建物)を、法令の制限内においてどのようにでも自由に使用、収益および処分できる権利を所有権(民法206条)といいます。 また、土地の所有権は、地表だけでなく、その完全な利用のために利益があるかぎり、空中および地下にも及びます。土地は、法律上は境界で区切られていますが、物理的には連続しています(隣の所有者の土地と必ず接続している)ので、お互いの土地の利用に何らかの影響を及ぼさざるをえない場合があり、権利を無制限に認めれば隣人同士の円満な生活は不可能になってしまいます。
そこで、民法には隣人同士のいさかいを防いだり調整したりして、お互いの権利を円滑に行使することを目的とした規定を設けています。
これは相隣関係といわれていて、民法209条から238条において、次のような権利や義務を規定しています。
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1.隣地使用請求権(立入権) |
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2.公道に至るための他の土地の通行権 |
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3境界標の設置 |
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4.境界を越える竹木 |
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5.境界線付近の建築物の建設 |
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6.観望の制限 |
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など
私たちが日々の生活を行っていく上で、どのような問題があるのか、Q&Aにしました。
1.隣地使用請求権(立入権)
Q1.このたび、自宅の建物外壁のリフォームをすることになりました。
そのためには、隣地に足場を組み立てる必要があります。認められるでしょうか?
A1.隣の土地との境界上やその付近で、垣根や壁、建物を新築したり、リフォームする場合があります。
その際、作業足場を組み立てたり、建築材料を搬入したりするため、隣地を使用しなければならない事態が生じます。
そのために必要な範囲内で、隣地の使用を請求することができます(209条1項本文)。
ただし、隣人の承諾がなければ、その住家に立ち入ることはできません(同条1項但書)。
また、隣地の使用の請求をして承諾を得ることができない場合は、裁判所に訴えを提起して承諾に代わる判決を求めることができます。
なお、使用(立入)によって隣人が損害を受けたときは、償金を請求することができます(209条2項)。
第5回 改正民法(令和5年4月1日施行)についてを参照してください。
2.公道に至るための他の土地の通行権
Q2.私が譲り受けた土地は、周囲のすべてが他人の土地に囲まれていて、公道へ出ることができません。
自由に公道へ出るには、どうすればよいのでしょうか?
A2.自分のもっている土地が他人の土地に囲まれていて、その囲んでいる他人の土地を通行しないと公道に出ることができないような土地を袋地(ふくろち)、囲んでいる他人の土地を囲繞地(いにょうち)といいます。
また、池沼、河川、水路、海を通らなければ公道に出ることができないか、あるいは崖があって公道との間で著しい高低差がある土地を準袋地といいます。
袋地と準袋地の所有者が、公道まで達するために隣地を通行する権利(通行権)について、210条以下に規定されています。
図のように、袋地の所有者Bは、公道に出るために囲繞地の所有者A・C・Dのいずれかの土地を通行する権利があります。
ただし、隣地を通行する場合にはある程度の制限があります(211条1項・2項)。
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@通行する場所や方法は、通行権者の必要とするものであること。 |
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A隣地のために損害が最も少ない方法を選ばなければならない。 |
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B通行権者は、必要があるときは、隣地に通路を開設することができる。 |
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このうちAについて、必ずしも公道への最短距離によるべきではなく、隣地と公道との接続性、従前の利用(もともと私道として利用されていた等)などをも考慮して、最も損害が少ない場所によるべきとされたものがあります(高松高判平成元.12.13)。
上記図で、もし、すべての条件が同じであれば、B地から最短距離の方法によるべきですので、〇で書いたルートが選ばれることになります。
通行権者は、通行権を行使することによって隣地に損害を与えたときは、償金を支払わなければなりません(212条本文)。
土地を分割したり、土地の一部を譲渡することによって、公道に出ることができなくなったような土地の場合には、その土地の所有者は公道に出るために他の分割者あるいは譲渡者の所有地だけを通行することができます(213条1項前段、同条2項)。
図のように、土地BをB−1とB−2に分割した場合、B−2の所有者はB−1の土地を通行して公道に出ることができますが、Aの土地を通行することはできません。
この場合、分割者あるいは元の所有者の土地を通るときは、償金を支払う必要はありません(213条1項後段)。
3.境界標の設置
Q3.隣地との間に境界標を設置したいのですが、設置にかかる費用の負担はどのようになるのでしょうか?
A3.境界標は、境界の点または線の位置を表すための標識です。
境界標の設置および保存の費用は、土地の所有者と隣地の所有者が平等の割合で負担しなければなりません(223条・224条)。
ただし、その際の土地の測量費用については、その土地の面積に応じて分担しなければなりません(224条)。
4.境界を越える竹木
Q4.隣地の樹木の枝が境界を越えて当方の庭にはみ出し、果実や毛虫が落ちたり、落ち葉で迷惑しています。
こちらで勝手に枝を切ることはできますか? 根の場合はどうでしょうか?
A4.隣地の竹木の枝が境界線を越えて侵入している場合、その竹木の所有者に、その枝を切り取ることを要求することができます(233条1項)。
隣に竹やぶがあると、春になると自分の土地に竹の子が生えてくることがあります。
隣地の竹木の根が境界線を越えて侵入している場合には、自分でその根(竹の子)を切り取ることができます(同条2項)。境界に関することでも、枝と根では扱いが異なりますので注意が必要です。切り取った根の所有権は、切り取った者に属すると解されています。
第5回 改正民法(令和5年4月1日施行)についてを参照してください。
5.境界線付近の建築物の建設
Q5.お隣りさんが住宅を改築することになりました。
新しい建物は、境界ぎりぎりのところまで建てようとしています。
境界線と建物との距離について、何か規定はあるのですか?
A5.建物を築造する時は、境界線から建物まで50センチメートル以上の距離をおかなければなりません(234条1項)。
これはお互いに、採光・通風・建物外壁の修繕の便宜を図るためと、火災の延焼防止等の生活の利益を守るためです。
50センチメートル以上の距離をおかないで建築しようとする者に、隣地所有者は、その建築を中止させ、または変更させることができますが、建築に着手した時から1年を経過し、またはその建物が完成した後は、損害賠償しか請求できません(234条2項)。
それは建物を取り壊すことにより生ずる不利益の方が大きいからです。
234条の規定と異なる慣習があれば、それに従います(236条)。
民法234条の規定と異なり、建築基準法65条では、防火地域または準防火地域内にある建築物で外壁が耐火構造のものについては、外壁を隣地境界線に接して建築することができることを定めているところ、最判平元.9.19は、建築基準法65条を民法234条の特則と考えており、建築基準法65条の規定に従う場合には、慣習がなくても、50センチメートル以上の距離を空ける必要はありません。
6.観望の制限
Q6.現在、自宅の新築工事をしています。
隣家から、窓の目隠しの設置も行ってほしいとの申し入れがありました。
目隠しはどのような場合に必要ですか? 設置にかかる費用はどちらが負担するのでしょうか?
A6.近年、宅地の細分化に伴い、建物の過密化や高層化により、目隠し設置の請求が増加する傾向にあります。
土地の境界線から1メートル未満の距離に、他人の宅地を観望することができる窓または縁側・ベランダを設ける者は、それに目隠し(ブラインド等)を付けなければなりません(235条1項)。
ここでの「宅地」とは、登記簿上の地目によるのではなく、現に住宅が建てられている土地をいいます。
また、目隠しの設置を請求できる者と設置の義務がある者は、ともに土地所有者ではなく、建物所有者です。
この距離は、窓または縁側の最も隣地に近い点から、窓または縁側に直角に線を引き、その線が境界線と交わる点まで測って算出します(同条2項)。
235条の規定と異なる慣習があれば、それに従います(236条)。
設置にかかる費用の負担について、特別の規定はありませんが、民法の趣旨からみて設置義務者の負担というべきでしょう。
その他、日常生活で起こりうるものとして、煙・騒音・振動の侵入、日照・通風の妨害等の生活妨害・公害があり、当事者の立場が相互に入れ替わる可能性のあるものとして、一種の相隣関係の問題であるといえますが、境界問題相談センターおおさかでは土地の境界の問題を取り扱っていますので、民法に規定されている相隣関係にとどめました。
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